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最高裁判所第三小法廷 昭和44年(あ)238号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人仲武雄の上告趣意第三点は、憲法三八条三項違反を主張するが、共犯者の自白を、右憲法の規定にいわゆる「本人の自白」と同一視し、またこれに準ずるものとすることのできないことは、当裁判所の判例(昭和二九年(あ)第一〇五六号同三三年五月二八日大法廷判決、集一二巻八号一七一八頁)の明らかにするところであるから、所論は理由がない。

同弁護人のその余の論旨は、違憲をいう点もあるが、実質はすべて単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

弁護人宇野源太郎の上告趣意は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって同条の上告理由にあたらない(記録を調べても、所論各供述調書に任意性を疑うべき点は認められないとした原判断は相当である。)。

よって、同法四一四条、三九六条により、弁護人仲武雄の上告趣意第三点に関する裁判官田中二郎の反対意見を除くほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

裁判官田中二郎の反対意見は次のとおりである。

弁護人仲武雄の上告趣意第三点について。

憲法三八条三項は、「何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない」と規定している。これは、いうまでもなく、自白偏重の弊に陥ることを避け、万一にも起り得る誤判を防止しようとするものである。この趣旨から考えると、ここでいう自白の中には共犯者の自白をも含むものと解するのを相当とする。法文の字句からいえば、「本人の自白」とあり(刑訴法三一九条二項も被告人の自白が自己に不利益な唯一の証拠である場合には、有罪とされないと規定している。)、文理上は、共犯者の自白は含まれないようにみえ、これが本判決の多数意見が引用する大法廷判決の多数意見の有力な根拠とされているようであるが、自白偏重の弊に陥ることを避けようとする憲法の趣旨に則して合理的に解釈すれば、本人の自白のみならず、共犯者の自白をも含み、共犯者の自白を唯一の証拠として、本人を処罰することは許されないといわなければならない。何となれば、共犯者の自白を唯一の証拠としてよいということになれば、被告人本人を処罰するために、共犯者の自白強要を助長するおそれがあり、ひいて誤判を生ずる危険があるからである。もう少し具体的にいえば、甲乙共犯の場合の自白の内容が、被告人甲の犯罪事実であると同時に被告人乙の犯罪事実である場合には、甲の自白だけでは甲を処罰することができないために、そのことを理由として捜査当局が乙の自白を誘導しようとするおそれが絶対にないとはいえず、乙もまた、捜査当局の意を抑えて、自己について寛大な取扱いを求めるために、甲に不利益な事実を誇張し、乙自身に不利益な事実を隠蔽しようとする態度をとらないとも限らない。このような事情のもとになされる可能性のある乙の自白を唯一の証拠として甲を有罪と断ずることは、甲自身の自白を唯一の証拠として甲を有罪と断ずる以上に不当な結果を来たすおそれさえあるといってよい。また、右の場合に、自白者たる乙は、その自白によって有罪とされることなく、同一犯罪事実を終始否認している共犯者たる甲が右の自白によって有罪とされるという不合理な結果を来たすことともなって、常識上からも納得しがたい(このことは、すでに、昭和三六年(あ)第二九五五号同四〇年二月九日第三小法廷判決、裁判集一五四号六七五頁に私の反対意見で詳述した。)。そして、この理は、本件のようないわゆる必要的共犯の場合にも異ならないものと解すべきである。

しかるに、本件第一審判決は、判示第一および第二の事実について、必要的共犯の関係にある受供与者清原正憲の検察官に対する自白を唯一の証拠として被告人の罪責を認めているところ、原判決はこれを正当として是認しているのであるから、原判決は、この点において破棄を免れない。

(裁判長裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美 裁判官 関根小郷)

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